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〈注目の実務家教員インタビュー〉【第1回】京都光華女子大学・上田修三教授『経験がパズルのピースのようにピタッとはまって、今がある』

教育人財開発機構 編集部 2020.11.09

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〈注目の実務家教員インタビュー〉【第1回】京都光華女子大学・上田修三教授『経験がパズルのピースのようにピタッとはまって、今がある』
【プロフィール】

1954年生まれ。同志社大学経済学部卒業後、1979年日本航空株式会社に入社し、人材育成担当として、CS推進(顧客満足度推進)などに取り組み、社内教育に従事。2007年には人材会社・株式会社JALビジネス(現:キャプラン株式会社)へ出向し、エリアの責任者を務め、2010年日本航空株式会社を退職。その後は2011年から2年間、京阪電気鉄道株式会社(現:京阪ホールディングス株式会社)に勤務。2014年3月から同志社大学でキャリアコンサルタントとして活躍する。2018年以降は大阪企業人権協議会サポートセンターや一般財団法人海外産業人材育成協会、公益財団法人京都府国際センターにて講師を務めながら、京都民際日本語学校で日本語教師(非常勤)も務めている(すべて2020年11月現在も継続中)。そして、2020年4月に京都光華女子大学キャリア形成学部キャリア形成学科教授に就任。これまでの社会人経験を盛り込み、実務家教員ならではの職場の臨場感や職業意識を実感させる授業を展開している。

[企画概要 ~Outline~]

高等教育機関で活躍されているさまざまな実務家教員にインタビューを敢行。インタビューを通して、実務家教員の仕事内容をひもといていきます。
 

第1回では、2020年4月より京都光華女子大学で実務家教員に就任された上田修三(うえだしゅうぞう)教授を取材。業務についてはもちろん、実務家教員を目指したきっかけややりがいをお話しいただきました。(教育人財開発機構 編集部)

〈実務家教員になるまで ~Before~〉

Q:実務家教員を目指したきっかけは何でしょうか?
教員として働いている親族が多かった影響もあり、昔から教えることが好きでした。実務家教員というか「社会人が大学教員になる」という選択肢を知ったのは、日本航空で就業していたときです。同僚や元社員が大学に就職していく姿を見ていて、社会人から大学教員になる道があることを知りました。ただ、そのときはあまり意識していませんでしたね。

そんな私だったのですが、時が経ち、実務家教員を目指そうと思い始めたのは2013年のことです。当時、私は京阪電鉄に勤務していましたが、「これからどう生きるか」を考えていた時期でした。ちょうどそのとき、観光学で権威のある同志社女子大学・山上徹先生が定年で退職され、教員公募があり、応募の準備を始めたのです。まずは実際に履歴書を書き出し、知り合いの大学理事に相談しましたが、「学卒では厳しい」と言われてしまいました。しかし私は諦めず、その後7年間ずっと可能性を探り、何度も応募し続けました。応募していく中で、徐々に「大学で仕事をしたい」という気持ちが高まり、教員にこだわらず仕事を探していました。そして、ご縁があって同志社大学でキャリアコンサルタントのポジションに就きました。

なぜ他の教育機関ではなく、「大学」で働くことにこだわったのかというと、JALビジネス時代の経験が根底にあります。私は2007年にJALビジネス(現:キャプラン)という転職エージェントのエリア責任者をしていました。そこで、転職活動においてこれまでの経験を活かし常にキャリアアップしていく方、豊富な実務経験があってもなかなか上手く転職ができない方、いろいろな方のキャリアを支援してきました。そんな転職希望者の姿を見て、キャリア支援や若い方の進路指導は社会的に意義のあることだと強く感じました。だからこそ、社会に一歩を踏み出す手前の若者に教えることができる大学で働きたいという気持ちが大きくなったのだと思います。


Q:求人への応募から入職までの経緯を教えてください。
今回の京都光華女子大学の求人は、2020年1月中旬に見つけました。応募締め切り日が数日後に迫っており、タイトなスケジュールでの書類提出でしたが、「応募書類のストックがあったこと」「写真は2カ月毎に撮り直していたこと」が功を奏しました。大学の募集は「4月採用であれば前年10月から募集開始」というように、半期くらい前倒しで行われるものなので、今回の求人に応募できたのは幸運だったと思います。そこから、数回の面談やシラバスの提出などの選考を経て3月下旬に最終的に採用に至りました。


Q:選考で工夫したポイントは何でしょうか?
選考にあたって工夫したポイントは大きく3つあります。

1つ目は「大学に合わせた自分なりのキーフレーズを使うこと」です。大学が公開している資料を参考に、私の経験と照らし合わせ、応募書類に落とし込んでいきました。私の場合、キャリア形成学科の専門カリキュラムである「ビジネス」「ホスピタリティ」「ソーシャル」の3つの学びの領域を意識し、これまでの経験を「産官学」に分けて整理しました。

2つ目は「書類郵送時の送付状には一言添える」ということです。送付状には「私は常に相手の価値観、多様性を尊重し、傾聴の姿勢をもって、調和と柔軟な対応ができます。高い倫理観とともに、大人としての行動規範、マナーを重んじ、精勤いたします。」と記載していました。これを記載することで、私は仕事に真摯に取り組む人間であることを知っていただき、ともに働く教職員の皆さんにとっても、教える学生にとっても、安全・安心な人間であるということをアピールしたかったのです。

3つ目は「実務家教員養成課程でアドバイスを受ける」ということです。実務家教員養成課程とは、社会情報大学院大学が主催している「実務家教員として活躍するための素養と競争力を養う教育プログラム」のことです。2019年春に受講しましたが、実務家教員の経験がゼロからのスタートだったので、本当に受けて良かったと実感しています。シラバス作成や模擬授業の講義は、もちろん今の実務に活きていますが、特に、参考になったのは、応募時に大学へ提出する「教員個人調書(履歴書)」の講座です。講義を受けて、教員個人調書の書き方自体を間違えていたことに気づきました。先生方に赤ペンを入れてもらい、1枚に収まっていた教員個人調書が10枚に及ぶくらい、見違えるように変わりました。実務家教員の採用試験は、企業に就職するときの職務経歴書とは書き方も見るポイントも違いますから、是非受講することをおすすめします。

〈実務家教員になってから ~After~〉

Q:実務が教員として活かされていることは何でしょうか?
私が実務家教員になれたのは、募集条件とこれまでの経験がマッチしたからです。今回は観光分野の教授を募集していました。観光分野といっても、運輸サービスから旅行代理店、宿泊施設、娯楽・レジャー、お土産・製造販売、飲食などさまざまな産業が関わっていますが、私の運輸サービスでの経験、特に、「陸・海・空」のうち、陸(=京阪電鉄)と空(=日本航空)の2つの分野で経験があることを評価いただいたと思います。
 
また、募集要項には「学生に対する指導歴がある」という条件もありました。私は同志社大学でキャリアコンサルタントとして学生の進路指導をしながら、授業支援にも参画し、学生に課題分析手法やプレゼンテーションなども指導していました。他にも指導という観点でいうと、日本航空時代に客室乗務員を対象にセミナーを開講し、指導した経験もあります。セミナーの内容は、法令遵守意識の醸成やチームマネジメントなどです。さらには、さまざまな場所で講師としても活動してきました。例えば、大阪企業人権協議会サポートセンターでは、外国人を採用・雇用するときの「外国人の雇用と人権」というセミナーを担当しました。海外産業人材育成協会では、ASEANの国々から来日しているビジネスパーソンに向けて、リーダー研修やコンプライアンス研修を年5日間ほど実施しています。ほかにも、京都府国際センターでは、留学生に日本の就職のシステムや日本の商習慣について教えていますし、京都民際日本語学校では、日本語教師も務めていて、ビジネス日本語のクラスや日本語検定1級・2級を取得するための対策講座を担当しています。私はいろいろな場所で働いてきましたが、そのおかげで、産官学へのネットワークを築くことができ、その点においても、実務家教員の業務に役立つと期待していただいていると感じています。
 
こうして振り返ってみると、運輸サービスでの経験や講師としての指導経験、そしてそこで築き上げてきたネットワークが、今回の募集条件に重なったのだと思います。これまでの人生で積み重ねてきた経験の数々が、すべて今につながっているのです。無駄な経験など何一つなく、まるで一つひとつの経験がパズルのピースのようにピタッとはまって、今ができあがったような感覚です。こういうと大げさに聞こえるかもしれませんが、「経験すべてが実務家教員に活きている」といっても過言ではありません。
 


Q:実務家教員としての業務内容を教えてください。
京都光華女子大学は、仏教精神に基づく「心の教育」を基本とする大学で「就職に強い大学」です。その中でも私が担当しているキャリア形成学部キャリア形成学科は、2010年に新設されました。在籍している生徒は1学年80人程度です。学生は「ビジネス」「ホスピタリティ」「ソーシャル」の3領域から専門科目を自由に選択して学び、幅広い知識とスキルを身につけ、就職することを目指しています。
 
私は主に、1~3年生向けの授業を担当しています。具体的には、観光ビジネス、ビジネスマナー、実践英語(エアライン+観光業界)、日本語(外国人留学生対象)といった科目です。授業以外の業務もありますが、現在は授業とその準備にかなり時間がかかっているため、授業関連の業務が9割、授業以外の業務が1割という割合です。授業以外の業務は、キャリア相談やインターンシップのコーディネート、オープンキャンパスの対応、フィギュアスケート部の顧問、グリーンキーパー(花壇のお世話をする役割)など。私は、何でも積極的に関わることが大好きなのでさまざまな業務に取り組んでいます。その中でも特に力を入れているのはキャリア相談です。学生の現在を知ることができ、学びが多いです。


Q:やりがいは何でしょうか?
最近やりがいに気付かせてくれたエピソードを紹介しましょう。インターンシップの面談をしているとき、ある学生に「上田先生はおじいちゃんとお父さんの間みたい」と言われたのです。「おじいちゃんは優しい、お父さんはちょっとうるさい」と。そう聞いたとき、それがまさに自分の立ち位置なのかなと思いました。決して学際的ではないけれども、私の人生の経験値は伝わっている。社会で実務を経験してきた実務家教員ならではの、ちょっとだけビシッとしている感じが伝わっているのだと思います。就職に強い大学ですから、就職を意識している学生も多くいます。「就職率100%」は教職員全員の共通ミッションです。それを実現するために、私の社会経験を教えることで、学生が現場感覚を備えた新社会人へと成長するお手伝いができるのです。それが私のやりがいだと思っています。
 
講義の様子

〈これから実務家教員を目指す皆さんへ ~Message~〉

Q:最後に、実務家教員を目指す皆さんへメッセージをお願いいたします。
私は2013年から実務家教員を目指し始め、7年の歳月を要し、ようやく実現することができました。この7年間で得たことを大きく4つに分け、皆さんにアドバイスとしてお伝えしたいと思います。【1】いろいろなところに論文などを投稿すること、【2】出身高校や大学のOBOGとしてサポートをすること、【3】あらゆる人たちから助言を受けること、【4】社会と教育機関をつなげる活動をするために産官学のあらゆる方面に人脈を広げること、です。なかでも大切なのは【4】だと考えています。よく学生にも「ネットワーク・フットワーク」と言っていますが、必ず現場に行き、名刺をもらって渡すこと。これがフットワークです。今は新型コロナウイルスの影響で難しいかもしれませんが、フットワークで社会と接点を持ち、ネットワークを築く。それが社会と大学をつなげるきっかけになると思います。
 
最後に、皆さんに伝えたいことがあります。それは、「実務家教員に転職するのは、現職に不満や物足りなさがあるからではない」ということです。あくまでも実務で培った知見を後進に伝え・指導したい。そういう強い思いが実務家教員には重要です。そして、教えることが何よりも大好きな方が実務家教員に向いていると思います。チャンスを逃さず、挑戦してみてください。

 
※2020年9月に取材した内容を掲載しています。